IP-VPNとほぼ時を同じくして、2000年前後、もう一つのVPNサービス「広域イーサネット」サービスがスタートします。
企業にとって、画期的な回線サービスであるIP-VPNでしたが、1つの弱点がありました。それは、その名の通り「IP」に特化してしますので、「IPの通信にしか利用できない」ということです。専用線では、IP以外の通信も利用可能であるのが一般的ですが、IP-VPNでは、IP以外のプロトコル、例えば、SNA(IBM系の汎用機で使われるプロトコル)、AppleTalk(Apple社のマッキントッシュなどで標準的に使われていたプロトコル)等の通信をおこなうことができません。その弱点を補う形で利用できるのが、「広域イーサネット」です。IP-VPNは、レイヤー3で通信をおこないますが、広域イーサネットは、一段下のレイヤー2のレベルで、VPN(Virtual Private Network)を構成することにより、さまざまな通信、いわゆる「マルチプロトコル」での通信を実現しています。
- < 図:広域イーサネットとIP-VPN >
IP-VPNの弱点を克服した広域イーサネットですが、実際にマルチプロトコルが利用できる意味はどの程度あるのでしょうか?
この10年で、インターネットの爆発的な増加により、ほとんどの通信がIPで通信できるようになりました。10年前ならまだしも、今日では、IP以外の通信をおこなうことができるマルチプロトコルのメリットを享受できるのはごくわずかではないでしょうか?
広域イーサネットでは、マルチプロトコルに加えてもう1つのメリットがありました。それは、「速くて安い」。ということです。
IP-VPNの出現により、専用線に比べ劇的にコストが低下しました。しかし、高速な回線、例えば100Mbpsの回線を利用した場合、まだまだIP-VPNは高価でした。広域イーサネットでは、特に100Mbps等の高速な回線では、IP-VPNより割安な料金体系となっていることが多いです。
広域イーサネットは、なぜ「速くて安い」のでしょうか?それは、提供者のコストの仕組みにあります。一般論としては、
ルータの値段 > L2スイッチの値段(※1ポート当たりの価格比較)
という関係が存在します。要はルータよりスイッチだけで構築したほうがコストが安いわけです。これにより、広域イーサネットは、(IP-VPNと比較して)低価格を実現しました。また、もともとイーサネットインターフェースを利用していますから、100Mbps等の(WAN回線としては)広帯域なネットワークを組むことを得意としています。
さて、技術的には、かなり異なる広域イーサネットとIP-VPNですが、「利用する企業にとって」、結局IP-VPNと広域イーサネットの違いとはなんなのでしょう?
筆者は、誤解を恐れず、突き詰めれば
広域イーサネット ≒ 広帯域が得意なIP-VPN
であると考えています。
広域イーサネットの最大の特徴である「レイヤー2ネットワークを利用したマルチプロトコルの利用」ですが、インターネット技術が浸透した現在、IP以外のプロトコルを利用する企業がどの程度あるでしょうか?現代のデータ通信では、ほとんどがIPプロトコルさえ利用できれば十分ですので、「マルチプロトコルを利用できるメリットはほとんど無くなっている」といえると思います。また、回線を終端する装置としては、広域イーサネットでも、結局(スイッチではなく)ルータを利用することが多いようです。
実質的に、享受できるメリットはほぼ同一。ただし、「100Mbps等の広帯域を利用するときに強いVPNサービス」ととらえることができるのではないかと思います。